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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)22号 判決 1981年10月21日

控訴人(原告) 小池サタ

被控訴人(被告) 荻窪税務署長

訴訟代理人 梅村裕司 鳴海悠祐 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五一年三月一日付けで控訴人に対してした昭和四七年分以後の所得税の青色申告書提出承認取消処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に付加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人代理人は、次のように述べた。

さきに引用した原判決事実摘示中請求原因二の末尾(原判決六枚目―記録一八丁―表一行目)の後に行を改めて左のとおり加える。

「本件処分には、以下に述べるように、その通知書に十分な理由附記がなされていない違法がある。

法一五〇条一項一号には、帳簿書類の「備付け」、「記録」、「保存」がそれぞれ別個独立の概念として規定されているから、青色申告承認取消処分の通知書に理由を附記するに当つては、当該処分の基因事実を、単に「一号に該当する」と記載するだけでは足りず、「備付け」、「記録」、「保存」のいずれの義務違反が問われているのかを区別したうえ、具体的な事実をもつて特定して示すべきである。

ところが、控訴人に対する本件処分の通知書には、「取り消しの基因となつた事実」として、「昭和四七年分、昭和四八年分および昭和四九年分所得税の調査に関し必要があつたので、昭和五〇年七月一八日、同年同月二八日、同年一〇月二一日および同年一一月一九日の四回にわたり当税務署調査担当者が、あなたの自宅において、あなたの事業に関する帳簿書類の提示を求めたところ、その提示がありませんでしたが、そのことは、青色申告に係る帳簿書類の備付け、記録及び保存が所得税法第一四八条の規定に従つて行われていないことになります。したがつて、同法第一五〇条第一項第一号に該当しますので、青色申告承認を取り消します。」と記載されているにすぎない。この記載によると、「備付け」、「記録」、「保存」のいずれの義務違反が認定されているのか、帳簿書類の提示がなかつたことが右の認定とどのように結び付くのか、具体的には全く明らかにされていない。これでは、本件処分の基因事実をその相手方において具体的に知りうる程度に特定して記載されているとはいえず、理由附記として不十分であることは明らかである。

二  被控訴人代理人は、次のように述べた。

一の控訴人の主張事実を争う。

青色申告承認取消処分の通知書における理由附記について、法一五〇条二項は、その取消の基因となつた事実と同条一項各号のいずれに該当するかを附記すれば足りるものとし、それ以上のことを要求してはいない。本件処分の通知書には、控訴人も認めるとおり、調査日時及び調査目的を特定し、帳簿書類の提示要求に対しその提示がなかつたという具体的事実と、処分の根拠となつた法規の条項を特定して記載しているから、その理由附記に何ら違法の点はない。

理由

一  当裁判所は、控訴人の請求を失当として棄却すべきであるとするものであつて、その事実認定及びこれに伴う判断は、次に付加するほか、原判決の理由説示と同一であるから、その記載(原判決一七枚目―記録三二丁―表二行目から原判決二六枚目―記録四一丁―表七行目中「棄却する」まで。但し同末尾の「棄却する」を「棄却すべきである。」と改める。)を引用する。

1  原判決二三枚目―記録三八丁―裏五、六行目に「当該帳簿書類の不備不正の存否そのものを」とあるのを「当該帳簿書類を閲読することすらできず、そのためその備付け、記録及び保存が正しく行われているかどうかを」と改め、原判決二四枚目―記録三九丁―裏三行目中「を欠く」を「が正しく行われていない」と改める。

2  原判決二六枚目―記録四一丁―表五行目の後に行を改めて、次のように加え、同表六行目の「五」を「六」と改める。

「五 青色申告承認取消処分の通知書に、取消しの基因となつた事実を具体的に特定して摘示すべきことは、さきに引用した原判決の理由中三の2の(二)に説示するとおりである。控訴人の自認する本件処分の通知書の記載によれば、同通知書には、控訴人が被控訴人所部の調査担当官による帳簿書類の提示要求に応じなかつた事実を、その日時、場所等を特定して具体的に摘示したうえ、右事実をもつて、帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていないものと評価認定し、法一五〇条一項一号により青色申告承認を取り消す旨記載されているから、本件処分の基因事実の記載につき特定性、具体性を欠くものということはできない。また、法一五〇条二項は、当該基因事実が同条一項各号のいずれに該当するかを記載すべき旨定めるに止まり、一号該当の場合に、「備付け」、「記録」又は「保存」のいずれの義務違反があるかまで記載すべきものとはしていないから、この点の不記載をとらえて本件処分の通知書の記載が不十分であるとすることはできない。控訴人の主張は、採用し難い。」

二  よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、行政事件訴訟法七条、民訴法三八四条一項に従いこれを棄却すべく控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部秀信 村岡二郎 川上正俊)

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